DHC会長のヘイト発言とネット上の反応を見て思うこと

20210411の記事アイキャッチ 差別

NHKで株式会社DHCの吉田嘉明代表取締役会長の文章が取り上げられた。そのためネット上で話題になった。正直リンクを貼るのも嫌だなと感じるくらい酷い文章なのだが、下記に当該の「ヤケクソくじについて」というDHCの公式オンラインショップのサイト内にUPされている記事を貼り付けておく。

化粧品・健康食品・ファッション・インナーウェアのDHC

GoogleにINDEXされたくないのか、会長から原稿を画像で入稿されたからなのか、理由は定かではないのだが、なぜか本文は全て画像になっている。

おかげさまでコピペで引用できないので、掲載されいる2種類のコラムの要旨を下記にまとめる。

「ヤケクソくじの由来」

2020年11月 吉田嘉明会長の署名あり

  • サプリの売上高ではサントリーが一番だが、経産省の消費者アンケートではDHCが一番
  • DHCで500円で売れるものを、他社は5,000円近くで販売しており、バカな一部の消費者がありがたがって買ってる(原文がバカという表現を使っている)
  • DHCのサプリは(成分の)配合量が他社より高いので、医者も勧めている
  • 本当はもっと安くできるが、そうすると安いから買いたくないという層が増えるので、消費者還元として予想売上の1%を「ヤケクソくじ」として還元する
  • 売上が増えるほど還元額が増えていく仕組みになっていて良心的
  • サントリーのCMに起用されるタレントは全員コリアン系の日本人
  • DHCは起用タレントをはじめ、すべてが純粋な日本企業
  • そのためサントリーはネットで「チョントリー(原文ママ)」と揶揄されている

ここからはその後(日付がないので正確にはわからないが、おそらく2021年4月10日前後に掲載されいる)に公表されたコラムの内容になる。

  • NHKからコラムに人種差別の問題が含まれていて、今も掲載している理由を聞かせて欲しいという依頼があった
  • 依頼してきたNHKのディレクターの名前が、明らかに在日系が好む日本名であったので、NHKを騙るコリアン系反日日本人かと思った
  • (吉田会長は)常々、日本の朝鮮化を何よりも危惧している
  • NHKは幹部・アナウンサー・社員のほとんどがコリアン系である
  • 出演者についても、学者・芸能人・スポーツ選手の多くがコリアン系で、偶然を装った街角のインタビューすらコリアン系を選んでいる
  • (なぜそれが分かるかと言うと)特徴のある名前と、あご、口元、後頭部(身体的な特徴)ですぐに見分けがつく
  • サントリーが、社員や(CMに起用する)タレントをコリアン系ばかりにしたとしても(所詮は)一私企業である
  • NHKは公的機関なので(コリアン系ばかりになることを)放置できない
  • 自民党も一部コリアン系、野党はコリアン系だらけ
  • コリアン系は歴史の中で中国を宗主国にしてきたから、中国のやることには逆らえないというDNAができている
  • NHKは同族である韓国を悪く言わず、親分の中国にも何も言えない
  • 立憲民主党は党員すべてがコリアン系
  • マスコミは(吉田会長のことを)人種差別主義者と言うが、人種差別とは本来マジョリティがマイノリティに対する言動を指す
  • 今やコリアン系は東大・京大・一橋・早稲田を出て政界・財界・法曹界・マスコミ界という日本の中枢をすべて牛耳っている大マジョリティ
  • 経団連も、ここ数十年でコリアン系が増殖し、幹部や一般会員だけではなく、事務局員もコリアン系で占められているので、(経団連は)中国寄りの態度を示し、韓国には同情的である
  • 中国がウイグル族などの少数民族にやっていることは明らかに人種差別
  • アメリカでは昔は、黒人や朝鮮人が差別されていたが、今や一大勢力を形成しているから差別とは言えない、逆に西海岸では市議会の中心になり、日本人をいじめている
  • NHKに対してひと言「NHKは日本の敵です。不要です。つぶしましょう。」

まとめてて、ちょっと気分が悪くなるレベルの駄文である。

突っ込みどころしかない文章なので、一部を引用して批判するのは簡単だったのだが、全体像を把握してもらうために、箇条書きにまとめた。

まず前半の「ヤケクソくじについて」だが、こちらは題名通り「ヤケクソくじ」についての説明に主眼が置かれている。

  • サプリの売上でサントリーが一番なことが気に喰わない
  • DHCのサプリの方が優れている
  • さらにクジで消費者還元までしちゃう
  • DHCは純粋な日本企業だけど、サントリーはコリアン系の「チョントリー」だ

2020年11月の時点で、一度話題になっているのは最後の差別的な呼称の部分である。上三行のところで止めておけば、大人げない感じはしても大きな問題にはならなかったと思うが、人種差別をこじらせて最後の行につながるわけである。

後半の文章は人種差別を指摘されたことに対しての返答に当たる文章なので、ポイントは非常にシンプル。

  • 日本はほとんどコリアン系に占められ支配されている
  • 人種差別はマジョリティからマイノリティ対して行われるものなので、日本のマジョリティであるコリアン系には当てはまらない

2020年6月時点での韓国・朝鮮系在留外国人の数は特別永住者を含めて463,154人1在日韓国・朝鮮人(Wikipedia)とあり、また韓国・朝鮮系の帰化許可数は2020年が4,113人で、ここ数年は5,000人を割り込んでおり、そもそも1952年以降の全て(韓国・朝鮮系に限らない)帰化許可数の合計でも57万人程度である。2帰化許可申請者数,帰化許可者数及び帰化不許可者数の推移

勿論この方たち以外にも世代を経て、ルーツをたとどれば在日コリアンの系譜だという人たちはもっと多くなると思うが、とはいえ日本の総人口が1億2,500万ほどある現状で、在日コリアンの起点が多くても100万人程度なのに、数世代でマジョリティを占めるほど増えるとは合理的には考えられない。(そもそも吉田会長が名前や身体的特徴といった非科学的な基準で人種を判断してる時点で話にならない)

それにもかかわらず、この文章では日本の大半はコリアン系に支配されていて、自分たちの方がマイノリティで迫害されているとでも言いたげである。このような被害妄想状態は過去にオウム真理教などのカルト宗教の内部でも見られたように、先鋭化しやすく非常に危険な心理状態である。

またこの文章で顕著なのは、彼がコリアン系と名指して憎悪する対象にある。

  • サントリー(CM出演者含む)
  • NHK(出演者含む)
  • 自民党の一部
  • 野党の大半
  • 立憲民主党(野党に含まれると思うが具体名を上げていたので記載)
  • 有名大学出身の財界・政界・法曹界・マスコミ
  • 経団連
  • アメリカ西海岸の市議会

共通するのは吉田会長の考え方に反する、もしくは批判的な立場をとる人々であり、あいりていに言えば彼の嫌いな人々なのである。自分の嫌いな人々はすべてコリアンという話である。皮肉なことに、愛してやまない日本の大半の人間が、吉田会長は嫌いなのである。

しかしこの問題は「可哀想な人だね…」では片付けられない。

第2条 1.いかなる国家、機関、集団又は個人も、人種、皮膚の色又は種族的出身を理由として人権及び基本的自由に関し、個人、集団又は団体を差別してはならない。

第9条 1.形態のいかんを問わず、人種差別を正当化し若しくは助長することを目的とした、一の人種又は皮膚の色若しくは種族的出の人の集団の優越性の思想若しくは理論に基づくあらゆる宣伝及び団体は、厳しく非難されなければならない。

あらゆる形態の人種差別の撤廃に 関する国際連合宣言(仮訳)–人種差別撤廃条約 (外務省)

1965年に国連で採択されたこの人種差別撤廃条約に日本も1995年に加入している。ここにしっかりと明記してあるように、有名企業のトップがこのような人種差別的な意見を表明することは許されない。

前にも書いたが、有力な人間の差別発言は、世の中の差別的な行動に権威を与えてしまうことになる。トランプ前米国大統領の発言がアジア系ヘイトクライムを助長したのが顕著な例だ。

個人的な意見として、差別という感情や思考自体はなくせないと考えているが、差別による暴力行為をできる限り減らしていくことは可能だと思っている。そのために一番必要なことは差別的な発言・行為を決して許さないという意志を、一人でも多くの人たちが明確に表明することだ。それにより差別的な行為を減らすことができることは、過去に差別と闘ってきた人たちの歴史からわかると思う。

Asian Racism Social Experiment | What Would You Do?

アメリカは差別大国でもあるが、差別ともっとも苛烈に闘ってきた歴史をもつ国でもある。この動画に出てきている人々がアメリカのすべてであるなどと言っているわけではない。ただこのように様々なルーツをもつ人々が、態度も姿勢もまちまちではあるが、一様に差別に対してNOという意志を示し、差別されている人をかばう姿に人間社会の未来があるのではないだろうか。

今回日本で起こった、DHCの問題に関するネットの反応をみるかぎり、吉田会長の発言を肯定する意見よりも、否定的な意見の方が遥かに多いように感じた。正確に統計をとったわけではないので感覚値だが、Yahooニュースのコメントや、Twitterでは反対意見や批判するコメントやいいねの数が明らかに多かった。

日本は「差別する人たち」と「差別を許さない人たち」の間に、「日本には差別がないと思い込んでいる人たち」が多くいる。これが日本の特殊性とも言える。日本にも「差別を許さない人たち」は多くいるのだから、あとは政府やメディア、多くの企業が日和らず「日本に差別はある、しかし差別は許さない」という意志を示すことだ。そうすれば「日本には差別がない」などという妄想から多くの人が抜け出して、今目の前にある差別を乗り越え社会を形成していく道を踏み出せるだろう。

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