モデルのマリエさんが過去に自分が遭遇した「枕営業」に関して、自身のInstagramで語ったことがメディア上で大きく取り扱われています。
その場に同席されたとする出川哲朗さんの件について、色々と書かれた記事が多いようですが、これにはそれぞれ言い分があり、事実関係が現時点では不明なので、ここでは一旦出川哲郎さん個人に関することは論点にせず、マリエさんに対する批判、特にこの告発を「売名行為」として叩くことに関して語っていきます。
立場上、仕事を与える権力のある人間が、暗に仕事(ここでは番組の出演)を餌にして性的な関係を要求することは、徹頭徹尾パワハラ及びセクハラであり、その中でももっとも悪質な部類ものだと思います。このような行為は決して擁護されるべきものではありません。
この点に関して異論がある人はさすがに少ないとは思いますが、この手の告発に関して必ず起こるのが「(被害者の)売名行為だ」という意見です。これは伊藤詩織さんの性暴力事件でも非常に多くの人たちが主張していました。
今回のマリエさんのケースは、性暴力に関しては未遂ではありましたが、当時十代であった女性が芸能界に大きな影響力をもっている強大な権力者に、仕事と引き換えに性交を迫られることがどれほど恐ろしいことだったか、想像するのは難しいことではありません。
性的被害を女性が告発するということは、思い出したくない過去を強制的に蒸し返され、精神的に多大なストレスを受けることにもなるのです。実際に性犯罪被害者の7割が被害を告発できずに泣き寝入りしているという話もあります。1性犯罪被害者の7割が泣き寝入り。「あなたは悪くない」と声がけを(婦人公論.jp)
実名で告発する以上、告発者本人も社会的な責任が伴うことを承知の上で、勇気をもって告発しているにも関わらず、その行為を売名行為などと呼んで中傷することは、非常に卑劣な行為だと思います。
そもそもこのような告発が売名行為だからやってはいけないとされるのならば、知名度で利益を得る可能性のある人は、社会的に影響が出るような問題に関しては一切告発することができない、ということになってしまいますよね。
彼女の告発は、マリエさんと島田紳助さんの個別の問題というだけではなく、芸能界を中心に常習的に行われている、権力を悪用した性行為の強要という大きな問題への告発です。売名行為などと論点をずらして、問題を矮小化してはいけないと思います。
芸能界を語る際に「枕営業」という言葉がよく使われる理由は、LITERAの記事にあるような芸能界の中心にいる権力者たちの、性暴力に対する認知が著しく低いことが大きな要因だと思います。
こういった大きな問題を勇気をもって告発した人間が、叩かれて黙らされるようなことはあってはならないと思います。本来叩くべきは枕営業などが常習化している業界内の、日本社会のモラルの欠如です。
立場の弱い人間、力のない人間が、強いものに一方的に搾取されるような仕組みは、社会にとって悪以外の何ものでもないです。社会悪から弱いものを守るということは、社会の構成員としての大切な義務だと思いますし、社会の存在意義だとも思っています。
例えば「子供を守る」と言ったときに、これに多くの人が賛同し異論を唱えることが少ないのは、肉体的にも社会的にも子供は弱いものだという共通認識があるところからから議論が出発しているからだと思います。
マリエさんの件も「十代の女性が権力者から脅迫を受けて性交を強要された」という状況を想像することから議論を始めれば、彼女のような人間を性暴力から守らなければならないということになるのではないでしょうか。
問題提起をした本人を叩くのではなく、まずは本人の置かれていたつらい状況を想像し、その背景にある枕営業のような性暴力が、容認されてしまう風潮をなくしていく方向に議論を進めていくことが必要だと思います。
ただ、今回の件に関しては実名が挙げられた人物たちの事実関係が現時点では不明であるにも関わらず、出川哲朗さんのCM降板という話までことが至っているという点には問題があると思います。
裁判で係争した結果や、ジャーナリズムが双方の言い分を聞いた上で事実考証を行って、ある程度事実関係が明らかになった後とかならわかるのですが、それがなされる前に一方の主張のみを受けて出川さんに制裁的な行為を行うのは行き過ぎていると思います。
- 1